映画祭事務局セレクション
世界の暗闇が、S・ウォーカーの凶暴な音楽を得て輝く
ポーラX
6/1(火) 15:50   6/9(水) 21:00
1999年/134分/35mm/フランス=スイス=ドイツ=日本
提供:ユーロスペース
監督:レオス・カラックス
出演:ギヨーム・ドパルデュー、カトリーヌ・ドヌーヴ
音楽:スコット・ウォーカー
 
“X” とは何か? それは二本の線分の交叉ではなく、衝突と反発の軌跡である。 疾走にあれほど執着していたカラックスがこの映画で拘泥するのは、その果てにある転倒で ある。転倒とはまさに地面との衝突と反発の軌跡の別名にほかならない。つまりこの映画を 貫くのは、疾走による水平運動ではなく、転倒による垂直運動なのだ。そして、転倒した者 たちはその跡地に穿たれた大きな穴へと堕ちてゆく。それは、暗い夜の森の奥深くへと分入る、 細い髪の毛に覆われた曖昧な存在の女の顔と、不安定な声の揺らぎを、おぼろげな月明かり が発見したときから始まった悲劇なのである。“顔よ、とうとうお前に会った。なぜお前が? 夜の亡霊のように…” その垂直運動の底に待ち受けているのは、シャルナス・バルタスの皮を被ったスコット・ウォー カーである。彼らの紡ぎだす、衝突と反発を繰り返し混沌へとなだれ込むインダストリアル な歪音のうねりは、この悲劇にただ痛ましいほど無関心に響き渡る。
※『ポーラX』の音楽制作場面も収録されているスコット・ウォーカーのドキュメンタリー『30 世紀の男』の上映も予定しています。
売れっ子小説家であるピエールは、美 しいフィアンセとの結婚を間近に控えたあ る日、夢に見た謎の女と出会う。私はあな たの生き別れた姉だと呟くその女の奇妙な 引力に惹きよせられたピエールは、すべて を捨てて地の果てへと堕ちていく。米文学 の異端ハーマン・メルヴィルが『ピエール』 で描いた苛烈な愛の悲劇が現代に甦る。
爆弾の投下、バイクのエンジン音。そし てスコット・ウォーカーのインダストリア ルな交響曲。